「行政のDX推進とは」「自治体や行政機関はなぜDX推進をする必要があるのか」と疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
近年、少子高齢化による人材不足や行政手続きの複雑化などにより、従来の業務体制では対応できない場面が増えています。紙中心の手続きや対面での申請が多い行政サービスは、住民にとっても職員にとっても負担が大きく、業務効率の改善が求められているのです。
そこで本記事では、行政DXの基本的な意味から、DX推進が求められる背景や必要性、具体的な解決策まで分かりやすく解説します。さらに、実際にDXに取り組んでいる自治体の事例も紹介しながら、行政のデジタル化がどのように進められているのかも紹介します。
行政のDX推進とは?

行政におけるDX推進とは、単に紙の書類を電子化するような行政のデジタル化だけを指すものではありません。行政DXの本質は、住民の利便性や体験を起点にしながら、データとデジタル技術を活用して行政業務の進め方や組織体制、制度・ルールまで見直し、新しい行政サービスの価値を生み出す取り組みです。
つまり、行政DXはシステム導入やIT化にとどまらず、行政の仕組みそのものを変革することを目的としたDX推進の考え方といえます。
総務省の自治体DX推進計画について
行政のDX推進において、重要となる指針が総務省が公表している「自治体DX推進計画」です。この計画は、自治体が行政DXを推進する際に、どのような分野から取り組むべきかを整理したものであり、行政サービスのデジタル化や業務改革を進めるための方向性を示したものです。
単にITツールを導入するのではなく、業務プロセスそのものを見直すBPR(業務改革)を前提とする点も特徴です。各自治体がこの指針を参考にDXを推進することで、住民サービスの利便性向上や行政業務の効率化を実現しやすくなるでしょう。
出典:総務省|自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第5.1版】
また、以下の記事では、DXを推進する上で重要なDXリテラシーについて紹介していますので、あわせてご覧ください。
行政のDX推進が必要な理由

行政のDX推進を先送りすると、行政サービスの品質と行政運営の両方が徐々に維持できなくなる可能性があります。ここでは、その理由も踏まえた上で3つの必要性について紹介します。
- 人口減少・人手不足に対応するため
- 行政サービスの利便性を向上させるため
- 災害や緊急時の対応力を高めるため
①人口減少・人手不足に対応するため
行政DX推進が求められる大きな理由の一つが、人口減少と人手不足への対応です。日本では高齢化が急速に進んでおり、総務省が公表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上の割合は2025年時点で約29.4%と過去最高水準となっています。

高齢化の進行により、福祉や医療、介護など行政サービスへの需要は増加していく一方で、自治体職員の数が増えることは期待できません。さらに、将来推計人口では多くの市区町村で人口減少が続くとされており、行政サービスの提供体制を維持するためには新しい仕組みが必要になります。こうした背景から、行政のDX推進によって業務の効率化を図ることが重要視されています。
②行政サービスの利便性を向上させるため
行政のDX推進は、住民にとっての行政サービスの利便性を向上させる点でも重要です。これまでの行政手続きは、平日の昼間に役所へ行き、紙の書類を記入して申請するという方法が一般的でした。しかし、この方法では仕事や子育てなどで忙しい住民にとって負担となります。
行政DXを推進することで、行政手続きのオンライン化が進み、スマートフォンやパソコンから手続きを完結できるようになります。デジタル庁も、住民がスマートフォンなどから行政手続きを行える環境の整備を進めており、自治体の行政手続きのオンライン化を重要な政策として位置づけているのです。
③災害や緊急時の対応力を高めるため
行政DX推進は、災害や緊急時の対応力を高めるという点でも重要な役割を果たします。日本は地震や台風などの自然災害が多い国であり、災害発生時には迅速な情報共有や住民支援が求められます。しかし、紙の台帳や窓口中心の業務体制では、災害時に情報の共有や手続きが滞る可能性があります。
行政DXを推進してデータやシステムを活用できる環境を整備しておくことで、災害時でも迅速な行政対応が可能になります。デジタル庁では、防災分野におけるDX推進の取り組みとして「災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)」の創設などを進めており、デジタル技術を活用した災害対応の強化を図っています。
行政のDX推進に取り組む方法
行政のDX推進に取り組むには、以下3つの方法がおすすめです。
- 民間企業や外部機関と連携する
- クラウドやデジタルツールを活用する
- 外部研修に依頼する
①民間企業や外部機関と連携する
行政のDX推進を自治体内部だけで進めようとすると、ノウハウ不足や人材不足によって取り組みが停滞してしまうことがあります。そのため、行政DX推進では民間企業や外部機関と連携しながら取り組みを進めることが重要です。
例えば、政府が整備している「デジタル改革共創プラットフォーム」では、自治体や政府機関の職員が参加し、行政DX推進に関する事例や資料、ノウハウを共有できる環境が整えられています。
②クラウドやデジタルツールを活用する
行政DX推進を継続的に進めていくためには、クラウドサービスやデジタルツールの活用が必要です。クラウド環境を活用することで、自治体のシステム運用を効率化し、行政DXを長期的に維持できる仕組みを構築することができます。
例えば、紙による回覧やExcelでの属人的な業務管理を、ワークフローシステムや電子決裁、RPAなどに置き換えることで、行政業務の効率化を進めることができます。行政DXを推進するうえではデータ連携を妨げる独自様式の見直しも重要です。自治体ごとに異なる様式を整理し、データを活用しやすい環境を整えることで、行政DX推進の効果を高めることができます。
③外部研修に依頼する
行政DX推進を実現するためには、職員のデジタルスキル向上や人材育成も必要です。システムやツールを導入しても、職員が使いこなせなければ行政DXは定着しないためです。そのため、行政DX推進では外部研修や教育プログラムを活用し、デジタル人材の育成を進めることが重要です。
しかし、どの外部研修を依頼するべきかわからないという方も多いでしょう。そこでおすすめなのが「DX研修・人材育成プログラム」です。DX研修・人材育成プログラムは、DXに必要な知識やスキルを体系的に学べるよう設計されており、幅広い分野の研修を提供しています。
また、独自のDXスキルチェックテストを活用することで、企業全体のDXレベルを可視化し、社員のスキル状況に応じた研修カリキュラムを構築できる仕組みも用意されています。以下のリンクから詳細をチェックしてみてください。
行政のDX推進における成功事例

行政のDX推進における成功事例を2つ紹介します。
| 事例 | マイナンバーカードを活用した「書かない窓口」 | 出張所にリモート窓口を設置 |
|---|---|---|
| 課題 | 行政手続きで同じ情報を何度も記入する必要があり、住民・職員双方の負担が大きかった | 専門的な相談のために市役所本庁へ行く必要があり、住民の移動負担が大きかった |
| 取り組み | マイナンバーカードの情報を読み取り、申請書の基本情報を自動入力する「書かない窓口」を導入 | 出張所と本庁舎をテレビ会議システムで接続し、遠隔で相談できるリモート窓口を設置 |
| 成果 | 申請書の記入負担が減り、住民サービスの向上と窓口業務の効率化を実現 | 出張所から専門相談が可能となり、行政サービスの利便性が向上 |
①マイナンバーカードを活用した「書かない窓口」|北九州市
北九州市では、行政のDX推進の一環としてマイナンバーカードを活用した「書かない窓口」を導入しています。従来の行政窓口では、住民が氏名や住所などの情報を申請書に何度も記入する必要があり、手続きの負担が大きいという課題がありました。
そこで北九州市では、マイナンバーカードのICチップに記録されている情報を読み取ることで、申請者の基本情報を自動入力できる仕組みを導入しました。住民は職員と一緒に質問に回答しながら手続きを進めるだけで申請が可能となり、書類への記入が不要になります。この行政DXの取り組みにより、住民の手続き負担が軽減されるだけでなく、行政職員の窓口対応の効率化にもつながりました。
②出張所にリモート窓口を設置|結城市
結城市では、行政DX推進の取り組みとして出張所にリモート窓口を設置し、遠隔で行政相談や手続きを行える仕組みを導入しました。これまで専門的な相談が必要な場合、市民は市役所本庁舎まで移動する必要があり、特に高齢者や遠方に住む住民にとって負担となっていました。
そこで結城市では、出張所と本庁舎をテレビ会議システムで接続し、出張所にいながら本庁の職員と相談できるリモート窓口を設置。行政DX推進により、住民は自宅に近い出張所で専門的な行政相談や各種手続きを行うことができるようになり、行政サービスの利便性が向上しました。
行政のDX推進からわかる成功ポイント

行政のDX推進を成功させるためには、単にシステムを導入するだけではなく、行政サービスや業務のあり方そのものを見直す視点が重要になります。ここでは、行政のDX推進を進めるうえで重要となる2つの成功ポイントを解説します。
- 業務改革(BPR)とセットで行政DXを推進する
- データで進捗を可視化し継続的に改善する
①業務改革(BPR)とセットで行政DXを推進する
行政のDX推進を進める際に重要なのは、業務改革(BPR)とセットでDXを推進することです。行政DXでは、紙の申請書をそのままオンラインフォームに置き換えるだけでは十分な効果は得られません。
例えば、従来の行政手続きでは、同じ情報を複数の書類に何度も記入する仕組みになっているケースがあります。この状態でDXを推進しても、住民や職員の負担は変わりません。そのため、行政のDX推進では手続きの流れそのものを見直し、「書かない窓口」やオンライン申請などを実現できる仕組みを設計することが重要になります。
②データで進捗を可視化し継続的に改善する
行政のDX推進は一度の取り組みで完了するものではなく、継続的に改善を重ねながら進めていく必要があります。そのためには、DXの進捗をデータで可視化し、優先順位を定期的に見直す運用体制を整えることが重要です。
例えば、
- オンライン申請の利用率
- 窓口対応時間の削減率
- 業務処理時間の変化
などの指標を設定することで、行政DX推進の成果を客観的に評価できるようになります。これにより、どの施策が効果を上げているのか、どこに改善の余地があるのかを把握しやすくなります。また、自治体では人事異動によって担当者が変わることも多いため、行政DX推進を個人のスキルに依存させない仕組みづくりも重要です。
行政のDX推進についてのまとめ
行政のDX推進は、単なるデジタル化やシステム導入ではなく、行政サービスや業務の仕組みそのものを見直す取り組みです。人口減少や人手不足が進む中で、従来の業務体制のままでは行政サービスの品質を維持することが難しくなっており、行政DXの推進は多くの自治体にとって重要な課題となっています。
行政DXを推進することで、オンライン申請やデータ活用が進み、住民の利便性向上だけでなく、行政業務の効率化や災害対応力の強化にもつながるでしょう。