急速な技術革新や人材不足に直面する中、企業の競争力を高める手段として「リスキリング」が注目されています。
本記事では、富士通・ENEOS・八天堂など先進15社のリスキリング事例を紹介しながら、導入の効果や成功のポイントを解説。アップスキリングとの違いや企業が直面する課題、支援制度もあわせて整理し、自社での実践に役立つ具体的なヒントをお届けします。
リスキリングとは何か

技術革新やビジネス環境の変化が加速する中、企業の競争力維持には人材のスキル変革が欠かせません。
こうした背景の中で注目されているのが「リスキリング(Reskilling)」です。
ここでは、その定義や類似概念であるアップスキリングとの違い、そしてリスキリングが今必要とされる理由について見ていきましょう。
リスキリングの定義
リスキリングとは、従業員が新しい業務や職種に対応するために必要なスキルを再習得する取り組みを指します。
既存の業務をより高度にこなすための教育とは異なり、職務の転換や業務の変革に対応するための「学び直し」です。特に、DX(推進やAI導入など、企業の構造的変化に伴う新たな職務への対応が求められる場面で有効とされています。
リスキリングとアップスキリングとの違い
リスキリングとよく似た言葉は「アップスキリング」です。両者の違いが、あいまいな方も多いのではないでしょうか。
両者は混同されがちですが、目的や対象スキルの範囲に明確な違いがあります。
| 項目 | リスキリング | アップスキリング |
|---|---|---|
| 定義 | 新しい職種や業務に必要なスキルを新たに習得する | 現在の職務に関連するスキルを深めて能力を高める |
| 目的 | 職務転換・キャリアチェンジ | パフォーマンス向上・業務効率化 |
| 主な対象 | 新しい業務領域に挑戦する人材 | 現職でのスキル向上を目指す人材 |
| 代表的な活用場面 | DX・AI導入、新規事業開発など | 業務改善、顧客対応力強化、ITスキル向上など |
このように、リスキリングは「仕事そのものを変える学習」、アップスキリングは「今の仕事をより深める学習」という位置づけです。企業の戦略や変化に応じて、両者を適切に使い分けることが求められるでしょう。
リスキリングが必要とされる背景
なぜ、今リスキリングが重要視されているのでしょうか。
その背景には、労働環境や経済構造の急速な変化があります。
- 技術革新の加速(AI・IoT・ビッグデータなどの普及)
- DX推進による業務のデジタル化と再編成
- 労働人口の減少による人材確保の難しさ
- キャリアの長期化に伴うスキル陳腐化のリスク
- 産業構造の変化による職務ニーズの多様化
こうした変化に対応するため、企業は従業員に対して新たなスキル獲得の機会を提供する必要があります。リスキリングは、個人のキャリアの再構築を支援するだけでなく、企業の持続的な成長戦略の柱としても注目されているのです。
DX人材とはいったいどのような人材をさすのでしょうか?
そんな疑問を知りたい方には、下記の記事がおすすめです。自社の人材レベルをチェックしてみましょう。
リスキリングが企業にもたらす効果
リスキリングは、単なる従業員教育にとどまらず、企業全体の競争力や変革スピードに直結する重要な経営戦略です。特にDX推進や新規事業開発など、組織に変化をもたらす局面において、人的資本の強化は欠かせません。
以下の表に、企業がリスキリングを導入することで得られる主な効果を整理しました。
| 効果カテゴリ | 具体的な効果内容 |
|---|---|
| 生産性の向上 | 業務の自動化・効率化により、同じ人数でも高い成果を出せるチームが形成される |
| 組織の柔軟性向上 | 市場環境や技術変化に応じて人材配置を迅速に変えられるため、変化対応力が高まる |
| 新規事業・イノベーション | 多様なスキル習得により社内からアイデアやプロジェクトが生まれやすくなる |
| 従業員エンゲージメント | 成長機会を提供することで、モチベーションや定着率が向上する |
| 採用・人材競争力強化 | 社員の成長を支援する企業文化がブランディングにつながり、採用市場での魅力が増す |
このように、リスキリングは人材育成という側面だけでなく、経営成果や事業成長に直結する「投資」であるという視点が重要です。特に変化の激しい時代においては、スキルの習得スピードこそが競争優位を決定づける要因となるでしょう。
企業のリスキリング事例15選

リスキリングを実際に取り入れて成果を上げている企業は、業種や規模を問わず全国に広がっています。
ここでは、大企業から中小企業まで多様な15社の事例を紹介します。
それぞれの企業が直面する課題に対して、どのような研修制度や人材育成策を実施しているのか、具体的な取り組みからヒントを得ることができます。自社での導入を検討する際の参考としてご活用ください。
富士通:全社員向けのDX教育と学習プラットフォーム
富士通は「全社員DX人材化」を掲げ、グローバル規模でのスキル再構築を進めています。職種を問わず全従業員がデジタル基礎を身につける体制を整備し、組織全体の変革を加速させています。
- DX基礎リテラシー研修を全社員に必修化
- 社内認定制度を導入し、スキルレベルを可視化
- オンライン学習プラットフォームを活用した自律学習推進
- 経営陣も研修に参加し、トップダウンでの変革を牽引
このように、教育体制を全社的に整備し、経営と人材育成を一体化することで、変革対応力を高めているのです。
キヤノン:専門研修施設での職種転換支援
キヤノンは、生産現場のデジタル化に対応するため、職種転換を伴うリスキリングを本格化。自社内に教育インフラを持つことで、長期的視点で人材を育成しています。
- 専門研修施設「CIST(キャノン情報システム研修所)」を運営
- 研修講座は年間400以上、実務直結型の内容が中心
- 受講対象は中堅層から若手まで広範囲
- 配属転換と連動した実践型教育を実施
スキルの習得にとどまらず、具体的な職務への移行を見据えた人材開発が特徴です。
味の素:従業員の半数以上がDXプログラムを受講
味の素は、全社を挙げたDX推進の一環として、従業員のリスキリングを積極的に展開。組織変革と人材変革を連動させた取り組みを行っています。
- DX推進部門を中心に全社員向けのプログラムを設計
- 約7000名中4000名以上が受講済み
- マネジメント層向けにデータ活用と意思決定力向上研修を実施
- 外部ベンダーと連携した動画・実践型教材を活用
単なる知識習得ではなく、実務に根ざした教育設計がポイントです。
ヤフー:グループ横断のAI教育「Z AIアカデミア」
ヤフーでは、親会社Zホールディングスとの連携により、グループ全体でのAI人材育成プログラムを構築。テクノロジーの基盤強化を目的とした大規模なリスキリングです。
- 「Z AIアカデミア」による共通教育プログラムを展開
- 初級〜上級までレベル別にAIスキルを習得
- グループ各社の専門人材が教材・講師を担当
- 内部での再配置と連動したキャリア支援も実施
グループ全体での学習資産共有が、効率と専門性を両立させているのでしょう。
KDDI:社内大学での4Dサイクル研修
KDDIは、変化の激しい通信業界で持続的成長を実現するため、独自の「社内大学」制度を運用。
4D(Design、Develop、Deploy、Demonstrate)サイクルを軸に、実践的な人材育成を進めています。
- 職種・階層ごとに設計されたカリキュラムを提供
- 社内での実証実験や企画提案を研修に組み込み
- DX部門と連携した現場主導型の講義を開催
- 経験学習(ワークショップや社外活動)を重視
KDDIは、教育を一時的な研修ではなく、キャリア全体を通じた「成長の循環」として位置付けています。
三菱UFJ銀行:階層別のデジタルセッションと評価制度
三菱UFJ銀行では、金融業界のデジタル化に対応するため、階層ごとに最適化されたDX教育を展開しています。従業員の成長度を可視化しながら、組織全体のスキル底上げを図っています。
- 階層別(一般職〜管理職)に応じたデジタル研修を設計
- 自社内でのDXセッションを継続開催
- 学習到達度を人事評価に反映する制度を導入
- 新卒・若手層向けにはeラーニングとOJTを組み合わせて実施
スキル定着と組織への定着を両立させるために、人事制度との連携がポイントです。
三井住友FG:チーム学習と個別対応型のDX研修
三井住友フィナンシャルグループでは、実務と連動したチームベースの学習に加え、個々のスキルレベルに応じた教育機会を用意。柔軟なリスキリング体制で変化対応力を高めています。
- 現場主導の「プロジェクト型研修」を各部署で実施
- 初級〜中級者向けのDX基礎講座をeラーニングで提供
- 社員ごとに習熟度を測定し、内容を個別に最適化
- 内製化した教材と社内講師による双方向学習が特徴
属人的な教育ではなく、組織としての「学習する文化」形成に力を入れています。
ENEOS:ベンチャー企業へのレンタル移籍制度
ENEOSは、既存社員の価値観やスキルに新たな刺激を与えるため、外部環境に触れさせる「レンタル移籍」制度を導入。リスキリングを越えた越境学習が注目されています。
- 社員を一定期間スタートアップ企業へ派遣
- ベンチャーでの業務経験を社内業務に還元
- 派遣前後でのスキルギャップ評価を実施
- 社内に「越境学習」文化を醸成し、人材流動性を確保
現場での非連続な経験が、イノベーション志向と自律的成長を促進しています。
中外製薬:階層別のDXアカデミー運用
中外製薬は、全社的なデジタル基盤強化に伴い、部門や職位に応じた「DXアカデミー」を体系的に運営。技術だけでなくビジネス視点の強化にも注力しています。
- 初級〜上級に分けた段階別プログラムを整備
- 管理職向けには「デジタル戦略思考」講座を設置
- 医薬品開発現場にも対応した専門講義を実施
- 社内公募型の人材選抜で意欲ある層を優先育成
「自ら選び、自ら学ぶ」文化を支える仕組みが浸透しています。
サイバーエージェント:社内外での学び合いの仕組み
サイバーエージェントでは、リスキリングを形式的な研修にとどめず、日常業務や社内文化の中に学びを溶け込ませています。フラットな組織風土も学習を後押ししているのでしょう。
- 社内勉強会やLT大会を社員主導で定期開催
- 社内SNS上でノウハウ・資料を常時共有
- 外部勉強会や資格取得の補助制度を整備
- 部署横断での人材シャッフルを通じて多様な経験を促進
社員自らが「教え合い・学び合う」風土づくりが、持続的なスキル循環を支えています。
西川コミュニケーションズ:全社で3DCG・AI人材を育成
印刷業を主軸とする西川コミュニケーションズでは、時代の変化に対応すべく、3DCGやAIを活用した新規事業への転換を進めています。社員の技術習得を支えるため、全社的なリスキリング体制を構築しました。
- 3DCGやAIに関する基礎研修を全社員に展開
- 社長自身がG検定を取得し、率先垂範
- DX人材の社内認定制度を導入
- 自主的なプロジェクト提案や実験環境も整備
従業員の成長と企業変革を連動させる姿勢が、組織全体の意識改革につながっています。
八天堂:スタンダード能力を見える化し全社員で実行
老舗ベーカリーの八天堂は、リスキリングの取り組みを「組織の再設計」と位置づけ、独自のスキル評価基準を設けて全社員に浸透させています。
- 「育成成長マップ」を使って職種ごとの必要スキルを可視化
- 社員のスキル習熟度を定期的に評価・フィードバック
- 社内表彰制度で学習継続を促進
- 新卒・パート社員を含めた全社員が対象
スキルの言語化と共有により、組織としての一体感と自律性を同時に高めています。
陣屋:ITリテラシー底上げによる業務変革
老舗旅館の陣屋では、IT未経験者が多い現場環境の中で、全社員のITリテラシー向上に取り組み、業務改善と顧客体験の革新を実現しています。
- オリジナルの社内基幹システムを社員が開発
- 社員自らがITツールの提案・導入を実施
- 勉強会や操作マニュアルを社内で内製化
- 改善提案制度により現場の声を積極的に反映
現場主導のリスキリングが業務効率とサービス品質の向上に直結しています。
久野金属工業:現場主導でのシステム開発と自動化
製造業の久野金属工業では、ベテラン社員も巻き込んで現場主導のシステム改革を推進。自社で業務システムを開発し、リスキリングによる競争力強化を実現しています。
- 工程管理システムなどを社内メンバーが自作
- ノーコード・ローコードツールの活用を全社で推進
- 各部門がIT研修を主導し横展開を実施
- ITスキル習得を業務改善表彰制度に連動
「つくる側」に社員を立たせることで、自走型の組織へと進化を遂げています。
マツバラ:大学通学・資格取得も支援する人材投資
中小製造業のマツバラでは、個人のキャリアと会社の成長を両立させる施策として、社員の学び直しを全面支援。人材投資による定着率向上を実現しています。
- 社員が大学・専門学校に通学する費用を会社が一部補助
- IT・機械・設計など職種に応じた資格取得も支援
- 自主勉強会や外部セミナー参加に出張扱いを適用
- 若手人材の定着と新卒採用強化につながる成果を実感
リスキリングを「未来への投資」として捉える姿勢が、企業文化にも良い循環を生んでいます。
人材育成に必要なロードマップや他社のリスキリング事例を知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
リスキリング施策を成功させる3つのポイント

多くの企業がリスキリングに取り組む中で、その成果には大きな差が生まれています。
単なる研修や学習機会の提供では、定着や実務への応用は難しいのが現実です。リスキリングを組織変革につなげるためには、制度や仕組みだけでなく、社員の意欲や環境づくりを含めた多面的なアプローチが欠かせません。
- 経営層のコミットメントとビジョンの明確化
- 継続的な学習を支える仕組みと制度
- 社員の主体性を引き出す動機づけ設計
ここでは、実際の成功事例から見えてきた共通の要素として、3点を紹介します。
①経営層のコミットメントとビジョンの明確化
リスキリングを全社的に成功させるには、経営層の強い意思と支援が不可欠です。
トップ自らがビジョンを示し、学習の重要性を全社員に伝えることで、組織に一貫性と納得感が生まれます。例えば、経営層自身が研修に参加したり、リスキリングを人事評価や戦略目標に組み込んだりする企業では、社員の受け止め方が大きく異なります。
リスキリングが単なる教育施策ではなく、企業の成長戦略であることを明確にすることで、現場も巻き込んだ本質的な取り組みへと進化するでしょう。
②継続的な学習を支える仕組みと制度
学び直しの効果は、単発の研修では継続しません。学習を日常化し、定着させるには、反復的かつ段階的な仕組みが必要です。
例えばeラーニングと集合研修の組み合わせ、スキルレベルに応じたカリキュラム、社内認定制度、評価との連動などが効果的です。また、学習時間の確保や上司の支援制度も重要です。成功している企業は、「学習することが仕事の一部」であるという文化を組織全体に根付かせています。制度と風土の両輪で支えることが、リスキリングの継続性を高める鍵です。
③社員の主体性を引き出す動機づけ設計
どれだけ制度が整っていても、社員本人が学ぶ意義を感じなければリスキリングは進みません。そのためには、個人のキャリアと学習を結びつける動機づけが不可欠です。
成功企業では、自主参加型の研修、公募制の学習プログラム、ピアラーニングなどを通じて、自ら学ぶ姿勢を引き出す仕掛けが多く見られます。成果を可視化し、社内で称賛する仕組みもモチベーションの維持に有効です。社員が「自分の未来のために学ぶ」と実感できる環境を整えることが、最終的な成果を左右するでしょう。
リスキリング対応のDX研修・人材育成サービスのおすすめ
実践的なリスキリングを推進する上で、専門性と柔軟性を兼ね備えた外部支援は欠かせません。
GETT Proskill for bizが提供する法人向け「DX研修・人材育成サービス」は、企業の現状を「DXレベルチェック」で可視化し、そこから最適な教育体制の構築・実施までを一貫してサポートする点が特長です。
完全自社開発の研修コンテンツは、短期集中から中長期育成まで幅広く対応。業務に直結するアウトプット重視の研修により、現場で即戦力となる人材育成が可能。製造・建築業をはじめ多業種への導入実績も豊富で、評価制度との連動や助成金活用の相談にも応じており、初めてのリスキリング導入にも安心です。
企業のリスキング事例から学ぼう
リスキリングは、もはや一部の先進企業だけの取り組みではありません。急速な技術革新と人材の多様化が進む現代において、あらゆる企業が持続的に成長していくために不可欠な経営戦略の一つとなっています。
本記事で紹介した15社の事例は、それぞれの企業が直面する課題や業種の特性に応じて、柔軟かつ実践的にリスキリングを推進している姿を示しています。自社に合った形でリスキリングを設計・実施することで、社員一人ひとりの成長が企業全体の変革につながっていきます。
これからの時代を見据え、今こそ人材への投資を「未来を切り開く力」へと変えていく一歩を踏み出しましょう。