企業のデジタル戦略を加速させるうえでDX人材は欠かせない要素です。継続的に競争力を高めるために人材育成に力を入れたい企業も多いでしょう。しかし「何から始めたら良いか分からない」「育成が本当に成功するのか不安」と悩む経営者も少なくありません。
そこで本記事では「DX人材育成の障壁」となっているものを紐解き、自社で人材育成するメリット・育成ロードマップと、成功事例をご紹介します。最後までお目通しいただけると、自信をもってDX人材を育成する道筋が見えてくるので、参考にしてみてください。
DX人材の育成に悩む企業が増えている背景
日本全体でデジタル人材が不足し、育成の担い手が減少していることに影響を受け、DX人材育成に課題を抱える企業が増えています。
経済産業省の調査によれば、2030年までに約79万人の高度IT人材が不足するとのこと。加えて、2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」も中小企業にとって脅威です。
2025年の崖とはDXを推進しなかった企業の競争力の低下、経済損失を示したもの。およそ2020年比でおよそ約3倍の経済損失と言われておりますが、多くの企業で思うように育成が進まず、競争力の低下が危惧されています。
DX人材を自社で育成するメリット
自社の競争力向上、価値創出のチャンスをつかむうえでDX人材の育成は不可欠です。しかし、近年は人材の獲得競争が激化しており、即戦力を採用することが難しくなっています。
とはいえ簡単とはいかない、自社でDX人材育成するメリットはどれだけあるのか見てみましょう。
- 自社のDX施策を反映しやすい
- スムーズに工程を進めやすくなる
- 社内風土を変革しやすくなる
- 人材の内製化が容易になる
自社のDX施策を反映しやすい
一口にDXといってもその目的は企業によって異なります。顧客データを効率的に取得してビジネスチャンスをつかみたい企業もいれば、既存インフラの省力化・自動化が最優先の企業もいるでしょう。
自社でDX人材を育成すれば、社内の現状を把握しつつ施策を反映しやすくなります。
スムーズに工程を進めやすくなる
自社でDX人材を育成すれば、システム開発の工程を進めやすくなります。自社のルールや価値観、現状を理解しているためコミュニケーションコストを抑えられるからです。
外部人材だとDXスキルには期待できるかもしれませんが、プロジェクトの推進において価値観の教育や現状把握に時間をかけなければいけません。
理想形は、社歴のある中堅社員・管理職をDX人材として育成し、プロジェクトを円滑に回せる環境を整えることでしょう。
社内風土を変革しやすくなる
自社の人材がDXに明るくなれば、社内全体でDX推進の機運を上げられるでしょう。
とくに社歴のある中堅人材がDXスキルを身に付けると、社内の雰囲気が大きく変わります。各部署への影響力が大きく、上司や部下などからの信頼も厚いからです。
つまり「○○さんがDXに力を入れているから部署全体でスキルを身に付けよう」という意識になりやすいため、DXに気後れしがちな企業でも意識改革が進むはずです。
人材の内製化が容易になる
自社でDX人材を育成しておけば、その後の人材の内製化も行いやすくなります。
自社のビジネスを理解している社員同士でコミュニケーションを取るため、育成の労力を減らせるはずです。また、教育ノウハウが確立されていれば他部署への水平展開も容易になるのです。
もし育成で疑問や相談があれば同じ職場内でコミュニケーションが完結するので、内製化のサイクルが加速するでしょう。
DX人材を自社で育成するデメリット
自社でDX人材を育成するとさまざまなメリットを得られますが、良いことばかりではありません。
自社育成ならではの以下のデメリットについても見ておきましょう。
- 育成に時間を要する
- 技術にキャッチアップできない
育成に時間を要する
DXには高度なITスキルを求められるため、育成に時間を要するケースが少なくありません。
とくに規模の大きな企業だとITのバックグラウンドも多様なため、教育の足並みを揃えるのも難しいのが現状です。たとえば、若手社員は最新のDXやAI事情に精通している一方で、ベテラン社員はプログラミングの知識すら疎いといったようにです。
対象社員が一定ラインまでスキルを身に付けるために、外部の人材に頼ったり育成をサポートしてもらったりなど、ある程度の時間と労力が必要になるでしょう。効果的かつスピーディーな人材育成のため、外部の支援を受ける際には、以下のような「企業それぞれにあったプランの立案と実施サポート」が受けられるサービスの活用がおすすめです。
技術にキャッチアップすることが難しくなる
ITの変化についていくことが難しくなるのも、自社で人材を育成するデメリットです。一部の業務で属人化が発生するリスクがあり、その他の社員が積極的に学ばなくなる恐れがあるからです。
極端な話「DXに関してはあの人に任せておけば良い」という意識になり、最低限のスキルしか学ばない社員が出てくるかもしれません。そうなれば、自社全体で最新の技術トレンドを負うことは難しくなり、結果として技術の進化についていけなくなるかもしれません。
常にキャッチアップするためには外部人材の活用が不可欠です。自社で人材を育成しつつ、外部の風を吹き込むことも重要と言えます。
DX人材の育成ロードマップ

DX人材を効果的に育成するには然るべき手順を踏む必要があります。
以下のDX人材の育成ロードマップについて、順を追って解説します。
- DXの方向性を決める
- 必要な人材を定義する
- 育成計画を立てる
- 社内で人材を公募する
- 計画に従って育成する
①DXの方向性を決める
まず、何のためにDXをやるのか目的を明らかにしましょう。DXといってもその中身は多岐に渡り、企業によって進むべき方向性が変わるからです。
バックオフィスの省力化が目的であれば、ITインフラに明るい人材の育成が急務です。一方。幅広い顧客データの取得・活用、新規顧客の開拓が優先されるのであれば、データ分析やAIのスキルが優先されるかもしれません。
このように、DXで何を実現したいかで育成の方向性が変わります。
②必要な人材を定義する
DXの方向性が決まったら、それを実現するためにどのような人材が必要なのか定義します。
情報処理推進機構の「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」では、DXに必要な人材を以下のように分類しています。
| DX人材の分類 | 期待される役割 |
| プロデューサー | DXやiTのビジネス活用を実現するリーダー |
| ビジネスデザイナー | DX・デジタルビジネスの企画・立案・推進など |
| アーキテクト | DXに関連するシステムの設計 |
| データサイエンティスト/AIエンジニア | AI、IoT(※)、データ分析などを活用して価値を創出 |
| UXデザイナー | DXユーザーに適したデザインの設計 |
| エンジニア・プログラマ | DX環境の設計・構築・運用保守など |
このようにDXの目的・フェーズによって各人材の役割が異なり、養成すべきスキルも変わってきます。自社が進めたいDXに沿って必要な人材を育成する必要があります。
※IoT:モノとインタネットをつなぐ技術
③育成計画を立てる
DXに必要な人材が固まったら社員の育成計画を立てます。
具体的には、各部署や業務で必要とされる技術と現在の社員のスキルレベルを棚卸しして、不足している技術と養成プランを立てます。
計画を立てる際に役立つのがスキルマップです。各社員のスキルと業務で求められるレベルを定量評価できるため、目標を達成したかどうかも把握しやすくなります。
④社内で人材を公募する
すべての社員を教育するのが理想ですが、予算や時間の関係上難しい企業も多いです。DXに強い興味・関心のある人材を公募しましょう。選定の主なポイントは以下の通りです。
- IT・DXに関して一定の知識はあるか
- DX施策に強い使命感をもっているか
- すでにDX関連の実務経験を有しているか
選定する際にエンジニアやプログラマ、情報系の学歴などを要件にする必要はありません。現在のスキルと知識・DX推進への熱意を踏まえて選ぶと良いでしょう。
⑤計画に従って育成する
候補の人材を集めたら主に以下の手段で育成します。
- 座学:プロジェクトマネジメント、リーダーシップ、AI、プログラミングなどの研修を実施
- OJT:座学で身に付けた知識を使って各種調査やプロジェクトの進め方などを実践
- オープンイノベーション:社外勉強会、共同プロジェクトなどに参加
計画を実行したら3か月後を目途に研修・OJTを通じて学んだこと振り返りましょう。具体的な活動内容、スキルの習熟度をチェックし、目的を達成できているか評価します。
DX人材を育成するときに注意すべきこと

ここではDX人材を育成するときに注意すべきことを解説します。
- 育成をゴールにしない
- 小規模プロジェクトで実践する
- すぐに育成結果を求めない
DX人材の育成でよくある課題も交えて解説します。
育成をゴールにしない
DX人材育成は手段ではなく目的化しないよう定期的に振り返りましょう。DXがうまく進まない背景として、実務・自社の施策を踏まえずに人材像を決めてしまうことが挙げられます。
目的と手段を取り違えないためには、類似のプロジェクトや事例を勉強することが重要です。育成の失敗・成功のプロセスを学べるため、正しい方向へDX人材を育成できるでしょう。
小規模プロジェクトで実践する
いきなり全社レベルで育成プロジェクトを展開すると、施策が頓挫する可能性があります。計画に不備があると社内全体から反発を受けるリスクが大きくなるからです。
DXを進めやすそうな部署から育成プロジェクトをスタートさせましょう。試験的に育成を進めてノウハウが固まったタイミングで他部署に展開するのが理想です。
すぐに育成結果を求めない
DX人材には高度な知識・技術が求められるため、一朝一夕で育つことは稀です。
日本の企業はシステム開発企業とユーザー企業に二分され、ユーザー企業にITの知見が貯まっていない現状があります。もともとノウハウがない状態で育成を始めるので、技術に精通した社員も少なく、その分育成に時間を要するかもしれません。
より早く育成の結果を求めるなら、企業向けDX研修・人材育成サービスの活用がおすすめです。自社内でDX人材を育成できるよう、成長戦略にあわせて柔軟な研修を提供します。
DX人材の育成事例3選
最後にDX人材の育成に成功した事例を紹介します。各社の課題や功を奏した施策、今後の課題などが分かります。業種が近ければ、自社の施策への反映もしやすいので、参考にしてみてください。
①教育機関の設立で人材の内製化に成功|ダイキン工業
ダイキン工業は、独自のDX教育機関を立てて人材の内製化を実現しました。
空調機の製造販売が専門のダイキン工業では、海外企業との競争激化でDXを活用したビジネスイノベーションが急務でした。しかし、空調が専門ゆえにIT人材が大幅に不足しており、企業間でも人材の獲得競争が激化しています。
このような背景を踏まえて、AI・データの利活用ができる人材を自社で育成できるようダイキン情報技術大学を設立。AI開発・データアナリティクスを中心に技術力向上を図り、受講社員に難関資格の受験を義務付けています。
新入社員を対象にダイキン独自のAI・IoT教育を実施して、自社の施策に応じたDX人材を創出しています。
参考:ダイキン情報技術大学
②ビジネスアーキテクトの育成を前倒しで達成|キリンホールディングス
キリンホールディングスは、DXでビジネス課題を解決するビジネスアーキテクトの養成を1年前倒しで実現しました。
2020年にDX専門機関を立ち上げましたが、情報部門主導の施策ではビジネス課題の解決につながらなかったとのこと。そこで現場起点の発想と顧客ニーズを把握できるよう、全社員向けのDX教育を展開しました。
教育機関の「キリンDX道場」は立候補制で、業務改善案の立案を目的に認定要件も設定。卒業生が具体的なDX案件を立ち上げて成果を出しています。
「DX=情報系の仕事」という枠組みに捉われず、幅広い社員にDXスキル習得の機会を生み出した好例です。
③トップダウンの育成施策で顧客との時間を創出|日清食品
日清食品は、トップの通達でデジタル施策を展開し顧客との時間を増やすことに成功しました。
セールス部門では、商談、訪問、プレゼンなど顧客に使う時間を作る際に、資料・報告書作成といった準備に手間を要することが大きな課題でした。
そこで、SFA(営業支援システム)の導入や専用端末の支給を開始。知識・技術を横断的に学べるよう、ナレッジの共有も進めました。その結果、営業担当が提案準備に要する時間を2割以上削減しました。
現場主導の知識共有環境を作り、コア業務に注力できる基盤を作った事例です。
DX人材の育成まとめ
この記事では、自社でDX人材を育成するメリットとロードマップ、成功事例などを紹介しました。
あらゆる業種でデジタル環境が普及するなか、DXの推進は自社の競争力を高めるうえで欠かせない要素です。必要な人材を定義しつつ計画的にDX人材を育成しましょう。