「DXの成功事例を調べても、自社にどう活かせばいいのかわからない」とお悩みではないでしょうか。DXの成功事例は業界や企業規模で選ばれがちですが、本当に参考になるのは「自社と同じ悩みを解決した事例」です。
そこでこの記事では、アナログ業務や技能の属人化、IT人材不足など、悩み別にDX成功事例10社を紹介します。各事例の成功の本質と、どのような企業と相性がいいかもあわせて解説しているので、自社に合うDX成功事例を見つける参考にしてください。
悩み別に見るDX成功事例10選
ここでは、DXを進める企業が抱えやすい悩み別に、参考になる国内企業の成功事例を10社紹介します。以下の比較表で、自社の状況に近い事例を探してみてください。
| DXの悩み | 企業 | 成功事例 | 相性のよい企業 |
|---|---|---|---|
| アナログ業務から抜け出したい | 陣屋(旅館) | 予約・顧客情報をクラウドで共有 | 少人数で現場業務が多い中小企業 |
| ベテランの技能が属人化している | 獺祭(酒造) | 酒造りの全工程を数値化 | 職人技に依存する製造業 |
| 低予算で製造現場を改善したい | 旭鉄工(自動車部品) | 後付けセンサーでラインを見える化 | 古い設備が多い中小製造業 |
| IT人材が少ない | ワークマン(小売) | 経営ダッシュボードでKPIを可視化 | IT人材が少なく内製化を目指す企業 |
| DX人材を社内で育てたい | ダイキン工業(空調) | 社内大学でAI人材を育成 | 中長期で人材に投資できる企業 |
| 保守・サービス品質を上げたい | クボタ(建機・農機) | AR活用の故障診断アプリを開発 | アフターサービスが重要なメーカー |
| 店舗の顧客体験を変えたい | トライアル(小売) | 会計できるカートを導入 | 多店舗展開の小売・サービス業 |
| 地域や取引先を巻き込みたい | 鹿児島銀行(金融) | 独自のスマホ決済アプリを展開 | 地域密着型の企業・金融機関 |
| 業界課題を新事業にしたい | コマツ(建機) | 施工全体をICTでつなぐサービス | 顧客の業務をよく知るメーカー |
| 生成AIで全社の生産性を上げたい | パナソニック コネクト(電機) | 社内AIを全社員に展開 | 全社で生成AIを活用したい企業 |
アナログ業務から抜け出したい場合(陣屋)
紙や電話中心の業務から抜け出したいなら、自社開発のシステムで経営再建を実現した陣屋のDX成功事例が参考になります。
リーマンショック後に経営難に陥った同社は、手書きの台帳で管理し、女将や一部の接客係に属人化していた予約・顧客情報を、クラウドでリアルタイムに共有できる仕組みに変えました。あわせて高付加価値路線へ転換したことで売上を伸ばしています。
陣屋が成果を出せたのは、週3日の定休日を設けるなど、経営方針の見直しとシステム化をセットで進めたからだと考えます。DX成功事例を参考にするなら、ツール選びより先に「何をやめるか」を決めることが重要です。
(出典:中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社 陣屋」)
ベテランの技能が属人化している場合(旭酒造)
ベテランの技能に頼る業務を標準化したいなら、職人の勘をデータに置き換えた獺祭(旧・旭酒造)のDX成功事例が参考になります。
杜氏(最高責任者)の退職を機にきっかけに、同社は社員主体で酒造りを行う体制へ移行しました。発酵タンクの温度や酒米の溶解度、アルコール度数などを記録し、製造工程を可視化しています。経験だけに頼らない酒造りに変えたことで、売上が200億円規模まで成長しました。
「勘」は、数値で捉えることが大切です。獺祭の強みは、データを記録するだけでなく、年間約3,000回の仕込みで検証と改良を繰り返していることにあります。成功事例を参考に、まずは1つの工程の記録から始めるのが現実的です。
(出典:週刊 経団連タイムス「現代だからこその伝統的なモノ造り」)
低予算で製造現場を改善したい場合(旭鉄工)
大がかりな設備投資をせずに製造現場を改善したいなら、後付けセンサーで生産ラインを見える化した旭鉄工のDX成功事例が参考になります。
自動車部品メーカーの同社は、昭和の機械にも取り付けられる簡易な後付けセンサーで、生産数や停止時間、電力使用量を可視化しました。そのデータをカイゼン活動に活かした結果、年4億円の労務費と22%の電力使用量を削減しています。
旭鉄工は、既存の機械にセンサーを後付けし、データをカイゼン活動に直結させて成果を出しました。予算が限られる企業は、成功事例をまるごと参考にするのではなく、まず1ラインで成果を示してからDXの取り組みを広げるのが得策です。
(出典:中部経済産業省「事例紹介 i Smart Technologies」)
IT人材がいない場合(ワークマン)
IT人材が少なくてもDXを進めたいなら、外部パートナーの研修を受けながら分析基盤を内製化したワークマンのDX成功事例が参考になります。
新業態の展開によって部署単位のデータ活用に限界を感じた同社は、BIツール「Looker Studio」で経営ダッシュボードを構築し、「棚割り導入率」などのKPIを可視化しました。店舗を巡回する管理者がデータを根拠に指導できるようになり、売上向上に貢献しています。
IT人材が少ない企業ほど、開発を外部に丸投げすると変化に対応できなくなりがちです。
そのたえ、DX成功事例を参考にするなら、まずは売上に効くKPIを1つ決めて可視化し、社内で改善を回せる体制をつくることがDX定着の近道です。
(出典:Google Cloud「顧客事例 ワークマン」)
DX人材を社内で育てたい場合(ダイキン工業)
DX人材を外部採用に頼らず育てたいなら、社内大学で人材育成を進めるダイキン工業のDX成功事例が参考になります。
IT人材の不足と外部からの獲得の難しさを感じていた同社は、2017年12月に「ダイキン情報技術大学」を開講しました。継続的に実施した結果、4期生の統計検定2級の合格率は92%と全国平均を上回るなど、デジタル技術を「わかる・できる」人材の育成が着実に進んでいます。
事例のように、2年間の育成は難しくても、座学と現場課題の演習を積み重ねていく設計にすれば、中小企業でも無理なく取り入れられます。研修後に実務で使う場を用意することが、DX成功の鍵です。
(出典:ダイキン工業「ダイキンのDX人材育成」)
保守・サービス品質を上げたい場合(クボタ)
サービス担当者の経験に頼らずに迅速な修理対応をしたいなら、故障診断をアプリ化したクボタのDX成功事例が参考になります。
建設機械の修理では、ディーラーの技術者がオンラインマニュアルを調べたり、クボタに問い合わせたりする必要があり、機械の停止時間が長引くことが課題でした。
そこで同社は、エラーコードや症状を入力すると点検箇所と修理手順が表示され、3DモデルとARで故障箇所を確認できるアプリを開発し、2020年12月に米国で提供を始めました。集まった故障情報は、アフターサービスの改善や故障予測、製品開発にも活かされます。
ノウハウを現場で使えるアプリに落とし込み、故障データが集まる仕組みにした点が優れているDX成功事例です。経験の浅い技術者の育成にも役立つため、アフターサービスが収益源の企業ほど相性がいい事例だと言えます。
(出典:クボタ「Kubota Develops a Smartphone App that Streamlines Troubleshooting of Construction Machinery」)
店舗の顧客体験を変えたい場合(トライアル)
店舗での買い物体験を変えたいなら、レジ待ちをなくすカートを導入したトライアルのDX成功事例が参考になります。
同社のスマートショッピングカートは、来店客が商品バーコードを読み取りながら買い物をし、専用出口を通るだけでプリペイドカードから自動精算される仕組みです。店内の位置に応じたレシピ表示や、購入商品に合うクーポンの提案など、ECのような購買体験も実現しています。
「レジに並ばなくていい」というわかりやすい顧客のメリットがあったからこそ、来店頻度の向上につながったと考えます。顧客体験を変えるなら、業務の効率化より先に、顧客が得をする仕組みを設計することが成功事例を作るために欠かせません。
(出典:くらしトライ「レジ待ち時間が最短4分の1に!トライアルのレジカートの使い方」)
地域や取引先を巻き込みたい場合(鹿児島銀行)
地域や取引先と一緒にDXを進めたいなら、独自の決済アプリで地域のキャッシュレス化を進めた鹿児島銀行のDX成功事例が参考になります。
同行のスマホ決済アプリ「Payどん」は、口座から直接支払える手軽さを強みに、鹿児島県内の4つの金融機関で共同運営されています。自治体などが発行するデジタル地域振興券の購入や、県内の路線バス・市電の運賃の支払いにも使うことができ、生活インフラとして広がっています。
自社だけが便利になる仕組みでは、地域や取引先の協力は得られません。
しかし、ほかの金融機関や自治体、交通機関まで巻き込み、使える場面を増やしていった点は、このDX施工事例の強みだと言えます。
(出典:Payどん「公式サイト」)
業界課題を新事業にしたい場合(コマツ)
自社の強みを活かして業界全体の課題を解決したいなら、建設現場のDXをサービス化したコマツのDX成功事例が参考になります。
同社はICT建機を進めたものの、その他の工程全体にボトルネックが残ることが課題でした。
そこで「スマートコンストラクション」を開始し、ドローン測量から施工の見える化まで、工事をICTでつなぐサービスを提供して、工期とコストが3分の1になった現場もあります。
建機単体ではなく、施工の全工程を見直した視点が新サービスにつながりました。
自社製品の改善が頭打ちになったときは、顧客の業務全体に目を向けることがDXの成功や新事業のアイデアとなるでしょう。
(出典:海外投融資情報財団「コマツのスマートコンストラクション」)
生成AIで全社の生産性を上げたい場合(パナソニック コネクト)
生成AIを全社で活用して生産性を高めたいなら、社内向けAIアシスタントを全社員に展開したパナソニック コネクトのDX成功事例が参考になります。
同社は業務生産性の向上、社員のAIスキル向上、シャドーAIのリスク軽減を目標に掲げ、自社向けAIアシスタントを国内全社員に展開しました。議事録作成やコード生成など、個人業務での利用が広がり、2025年度には総労働時間のの3.4%にあたる78.8万時間を削減しています。
成功事例として紹介した生成AIを用いたDXの取り組みは、ただツールを配るだけでは使われません。削減時間や利用回数を毎年測り、社員の活用スキルを高めながら用途を広げていくことが、全社に定着させてDXを成功させる鍵です。
(出典:パナソニック コネクト「技術・研究開発 / プレスリリース」)
事例から見えてくるDX成功の共通点

ここまで紹介した10社の事例は、業種も企業規模も異なりますが、DXを成功させるまでの進め方には共通点があります。主な共通点は、次の4つです。
- ツールではなく、解決したい課題から始めている
- データで現状を見える化している
- 小さく始めて、成果を見せてから広げている
- 社員が使いこなせる体制を整えている
なかでもDXの成功を左右するのが、「社員が使いこなせる体制」です。
優れた仕組みを導入しても、現場の社員が使いこなせなければ成果にはつながらないため、事例のように社員のスキルを高める取り組みとセットで進めて、DXの成功を実現しましょう。
DX成功事例を自社に当てはめる3ステップ
DX成功事例を読んで「うちでもやってみよう」と思っても、そのまま真似するだけでは成果を出せない場合があります。DX施工事例を自社に当てはめる際には、次の3ステップで進めるのがおすすめです。
| ステップ | やること | 成功事例のポイント |
|---|---|---|
| ①悩みを1つに絞る | 自社で最も解決したい課題を1つ決める | 複数の課題を同時に追わない |
| ②近い事例を選ぶ | 企業規模や社内の人材が近い事例を参考にする | 業界が同じかどうかより、状況の近さを重視する |
| ③育てるスキルを決める | 取り組みに必要なスキルと、担当する社員を決める | ツールの導入より先に、使いこなす人を育てる |
見落とされがちなのが、ステップ③です。成功事例と同じツールを導入しても、社員が使いこなせなければ、DXは一部の人だけの取り組みで終わってしまいます。
DXの取り組みを始める前に、誰にどのスキルを身につけてもらうかまで決めておくことが、事例のような成功を自社で再現する近道です。
DX成功事例を真似しても失敗するケース

本気時で紹介したDX成功事例は参考になる一方で、進め方を誤ると、同じ取り組みでも成果が出ないことがあります。ここでは、成功事例を真似するときに陥りやすい2つの失敗ケースを紹介します。
大企業の仕組みをそのまま持ち込む
大企業のDX成功事例は、豊富な予算や専門の人材があることを前提にしている場合が多くあります。そのため、人手不足や予算不足に悩む状態で大企業のDX事例をまるごと実行しようとすると、失敗につながるかもしれません。
たとえば、ダイキン工業のように新入社員が2年間学ぶ仕組みを、中小企業がそのまま取り入れるのは現実的ではありません。大企業のDX成功事例を参考にするときは、規模を小さくするか、一部の動き方を参考にするという考えが必要です。
ツール導入が目的になり現場で使われない
企業によっては、DX成功事例で紹介したものと同じツールを導入しただけで満足し、現場で使われないまま終わるケースも少なくありません。
ツールはあくまでDXの課題を解決するための手段です。
導入前に「何を解決するためのツールか」を現場と共有し、使いこなすための教育もあわせて計画しておく必要があります。
また、DX成功事例とは逆に、失敗からDXの進め方を学ぶのもおすすめです。
以下の記事でチェックしてみてください。
DX成功事例の自社実現カギは人材育成

DX成功事例と同じ仕組みを導入しても、それを使いこなす社員がいなければ、DXの成果は生まれません。
DXを自社で実現するためには、ツールの導入と並行して、全社員のDXリテラシーの底上げと、取り組みを推進する人材の育成を計画的に進める必要があります。しかし、社内だけでDX人材を育成するのが難しいというケースもあるでしょう。
その際に役立つのが、DX研修や生成AI研修などの外部サービスを活用する方法です。
たとえば以下のDX人材育成サービスでは、企業課題に合わせて最適な育成プログラムを立案してもらえます。伴走的に育成の支援を受けられるため、DXを成功に導きたい企業におすすめです。短期カリキュラムの提案なども受けられるため、候補として検討してみてください。
また、このサービスはDXスキルの可視化から階層別研修、実践ワークショップ、進捗管理まで一貫して支援しているため、DXの取り組みを成功させやすい環境が整っていると感じました。特に製造業や建築業での豊富な導入実績にも安心感があり、信頼できます。
DX人材の育成方法を把握してから検討したいという方は、以下の記事もチェックしてみてください。
DX成功事例についてまとめ
DXの成功事例は、業界や企業規模ではなく、「自社と同じ悩みを解決した事例」を選ぶことが大切です。
そして今回紹介した10社も、それぞれの課題を起点に、データの見える化や社員の育成を進めたことで成果につなげていました。まずは自社の悩みを1つに絞り、状況の近いDX成功事例を参考にしながら、取り組みに必要な人材の育成から始めてみてください。